青い花 第1話「花物語」

「エロティックス・エフ」に連載されている志村貴子による漫画作品のアニメ化。

ハチミツとクローバー」や「とらドラ」でも非常に見事な仕事を見せてくれたJ.C.STAFF制作&カサヰケンイチ監督の組み合わせで、今回も第1話から期待を裏切らない素晴らしい作品となっている。

原作の繊細な持ち味を、損なわないように大事に作られているのが、実に良い。キャラクターデザインはベテラン音地正行。志村貴子の「白い絵柄」の柔らかく、丸みを帯びたタッチ・特徴を完全に残した上で、きちんとアニメーションの絵としてまとめあげている。桜井弘明とのタッグが多く、コメディ要素の強い作風の印象が強い氏であるが、実は非常に腕の立つ人であり、特に名作系の絵柄に対しては大きな力を発揮できる人である。これは見事な起用だったように思う。

色彩設定は「ハチミツとクローバー」や「とらドラ」でもカサヰケンイチと組んだ、また「藍より青し」でも上品な色使いでセンスの良さを発揮していた石田美由紀。「ハチミツとクローバー」同様に、全体的に淡い色づけがなされていて、原作の持つ世界観から外れない、的確な彩色がなされていた。志村貴子がカラー原画で水彩調の絵を描くことがあるが、その色使いに共通するような、優しい素敵な彩色でまとめあげていた。

また、名匠小林七郎による美術が、特に美しい鎌倉の情景描写が実に素晴らしい。特に、あーちゃんが自宅から北鎌倉駅まで行き、そこから江ノ電に乗り継いでいくところを丹念に追って描写しているところが良かった。
私個人も鎌倉という街が好きなのだが、単にお寺が多いとかいう表面的な事象だけでなく、鎌倉という街並の独特の風情が好きなのだ。(DVDのメニュー画面では、鎌倉の裏路地が写真となって、その中にアニメーションのあーちゃんが配置されているデザインとなっているが、その写真1枚だけでパッと「鎌倉だ!」と分かってしまうほど、鎌倉の街並は強い個性がある)

少々話が逸れたゆえに、個々の要素を挙げるだけでずい分と行数を使ってしまったが、それだけ「青い花」第1話は驚くほどに「完璧」であったということなのだ。
本作でも、鎌倉の情景描写に尺が取られていて、大きくドラマは動かない。と言うか、ドラマとしては2点しかない。千津ちゃんが結婚することでふみちゃんがブルーになっていること、そしてふみちゃんとあーちゃんが10年ぶりに再会したことである。

本作ではセリフは最小限に留められ、また丁寧な説明は行われず、印象的なモノローグでまとめられてしまう場合もある。だがそれにもかかわらず、提示する要素の選択と、提示の方法の見事さ、それに日常的な芝居が丁寧につけられているために、登場人物たちの性格、心の動き、それぞれの関係性が観客に充分に分かる作りになっている。

たとえば、「イヤなことははっきりイヤと言えない」というふみちゃんのモノローグがありながら、ふみちゃんは今話で2回も(1回は友人のポンちゃんから、2回目はあーちゃんから)「怒った(顔してる)」と指摘されている。ここから、ふみの気が弱いながらも、一面で非常に頑なな面を持っていることが読み取れる。
また、千津ちゃんとふみちゃんが向き合って、2人で手を繋ぎ合っているシーンからは、この2人の女性がすでに肉体関係を結んでいることが暗に示唆されているのが分かる。

物語の構成も巧い。冒頭で幼少の頃に「ふみちゃんは、すぐ泣くんだから」とあーちゃんがふみちゃんを慰めている場面からスタートしている。同時に、千津ちゃんが結婚して離れてしまうことに対して、ふみちゃんがブルーに感じているところも描いている。物語の半ばにも、2人の幼少の思い出と、「ふみちゃんは〜」のセリフがインサートされる。そして最後、江ノ電鎌倉駅で、昨日の千津ちゃんを思い出してふみちゃんが泣いていた横に、あーちゃんが来てそっとハンカチを渡して言う。
「ふみちゃんは、すぐ泣くんだから」
それに対して、ふみちゃんのモノローグがかぶる。
「その一言は 十年の月日を 軽く飛び越えた」
そして、低いキャメラでやや俯瞰気味にプラットフォームに立つ2人の姿を映していたところに、ちょうどやってきた江ノ電が重なる。そして、黒地に白い時の「花物語」というタイトルバックが出たところで、物語が終わる。

冒頭で、ふみちゃんの少し沈んだ気分から始め、ラストでちょっと高揚した感じで締めくくるのが巧い。また、この構成が、ふみちゃんと千津ちゃんとの別れ、そしてあーちゃんとの再会という要素と重なっているところも見事だ。

ふみちゃん/あーちゃん2人を演じる声優陣もいい。
ちょっと陰のあるふみちゃんを、美少女アイドルで、やはりおっとりキャラでカブっている高部あいが、初々しい演技で好演している。また、あーちゃん役は儀武ゆう子が抜擢されていたのだが、これが実にハマっている。天真爛漫で、元気で、だけど兄貴には生意気な口をついてしまう「フツーの女の子」役を、実に活き活きと演じている。あーちゃんみたいな役どころならば、イマシュンの若手声優を起用したくなるところなのに、敢えて儀武ゆう子を抜擢したスタッフの慧眼には敬意を表したい。マジで。

他にも、冒頭でふみちゃんが制服が防虫剤の匂いがすることを気にしているところなど、女性らしい観点の描写に感心したり、原作ではややエロチックに描かれていた(ように私には思えた)「電車痴漢」の描写を、アニメではサラッと見せており、その演出のスムーズさに感心したりと、色々挙げていけばキリがないので、今話はもうこのへんで。いやしかし、本当に素晴らしい第1話で、次回以降がすごい楽しみだなぁ。

青い花 第1巻 [DVD]

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