藍より青し〜縁〜 第1話 桜春〜おうしゅん〜

藍青1stシリーズの2年後を舞台とした、2ndシリーズの初回。メインスタッフは、シリーズ構成があみやまさはるから金巻兼一に変更した以外は、ほぼ同じメンバー。ただし、全般的なレベルアップが図られており、前シリーズと比較して高級感が増した印象がある。キャラクターデザインは前回に引き続き岩倉和憲が担当しているが、前作のラインをベースとしつつ、より端正・耽美方向に絵柄がリファインされ、ぐっと大人びた印象にまとめあげている。また、美術面でも、背景の描き込みや小道具のディテールが細かくなり、より桜庭館の住人たちの日常生活が身近に感じられるようになったのもグッドだった。

ちかの無遠慮な「薫お兄ちゃんのこと好き?」という質問攻撃に対する雅と葵の回答が、本作品の本質を如実に示しており、興味深かった。(特に葵の回答は、本シリーズの副題である「縁(えにし)」という単語を用いて、かなり具体的なところまで踏み込んで、本作品のテーマ性について言及している)

雅:「私にとって、好き嫌いという感情は、大して重要ではありません。そうですね。私にとって薫殿は、絆そのもの、ですね」
葵:「ちかさんは、縁(えにし)という言葉を知っていますか?縁とは、人と人とを結びつけるご縁のことです。こうして、今一緒にいる皆さんはお互いが縁で繋がっていたんです。だから、出会えた。だから、薫様とは、ずっとずっと昔から縁で繋がっていたんだと思います」

「藍青」が志向する本質とは何か? それは端的に言ってしまえば、「擬似家族=桜庭館の住人たちを中心とするユートピア」である。(そして、その言葉は現存する相当数の「ハーレム・ラブコメ」と呼ばれる作品群の本質と共通するものでもある)
一方、この「擬似家族を中心とするユートピア」という状態を維持することと、「意中の2人が結びつく」ということは、背反する要素として対立しがちである。何故なら、「意中の2人が結びつく」ことによって真正な家族関係が成立し、擬似家族であった構成員はその擬似性が白日の下に晒されてしまうからだ。
高橋留美子作品で言えば、「うる星やつら」はラムとあたるの鬼ごっこ(日常生活)が延々と続いていくことが暗示された最終話となっていた。すなわち、ラムとあたるの関係性は不変のまま、半永久的に「ユートピア」が維持されていくことが象徴されたエンディングとなっている。
また、「めぞん一刻」では、主役の2人五代と響子は恋愛の結果、結婚・出産まで進むが、最後の場面では響子と五代が赤ん坊を連れて一刻館に戻る場面が描かれ、響子・五代・一刻館の住人たちが赤ん坊を中心に囲んでいる場面で最終のコマを締めている。ここでは、五代と音無響子を夫婦とした明確な「家族関係」が構築されながら、一方で「一刻館」での擬似家族関係性は継続していくことが暗示された、やや悪路バティックな形でのエンディングとなっている。
また、これは「ハーレム・ラブコメ」でもなく、日本の漫画/アニメでもないが、「アイス・エイジ3」という作品でも類似した関係性が描かれていて、興味深い。元々は「擬似家族」であった3匹の動物の1匹にマニーに配偶者と赤ん坊が産まれることにより、それまでの「擬似家族」であった3匹の関係性が崩壊しそうになるところから、物語が開始するのだ。(最終的には、マニーの配偶者エリー、子供のベイビーを含めて、またみんなで仲良く暮らすことになるという形で幕を閉じるのだが)アメリカのアニメ作品でも「擬似家族を中心とするユートピアと、その維持」という、非常に日本人的と思える繊細な関係性・問題を扱っているところが興味深く、他の作品群で同様の関係性が描かれていないか、一度探ってみる必要がありそうだ。

話が大きくそれた。「藍青」の話にとっとと戻る。

「藍青」で言えば、ティナや妙は薫を(自分達の中で勝手に)「配偶者」=「お父さん」と見ていることで、「擬似家族」は均衡がとれて成立している。しかし、もし薫と葵が恋愛関係であることが明らかになり、そして2人が結婚した場合には、他の桜庭館のメンバーはどうするのか?
藍青 1st シリーズ最終話で、薫と葵の関係性を認めた雅が2人の元を離れようとするのを、薫と葵が引き止めた場面があるが、これは「擬似家族による共同体」の関係性維持の力が働いたことによるものだろう。

一方で、「藍青」は明確に「男女の純愛もの」を志向しており、それが第2シリーズ 第1話で高らかに明示されている「擬似家族によるユートピア」とどう共存していくか/していかないのかが、今シリーズの最大の見所と言えそうである。

なお、今話については約6年前!に、別の日記で私は感想を書いている。基本的には上記とほぼ同じ内容を指摘している。下手クソな文章だが、今も下手クソだし、上手くもなっていないなぁ。

http://d.hatena.ne.jp/oippu/20040324#p2

で、他の要素についてもちょこちょこと。

作画監督は杉本功。端正方向にも描けることを知って、ちょっと驚いたな。相変わらず、コメディ要素が強い作画は上手だったけれど。

オープニングは、1stシリーズの完成度には及ばないものの、より端正になったキャラが、より美麗になった背景をバックに、シリアスな演技を見せていくダイジェスト風の映像がカッコよく、これはこれでアリだった。原画に杉本功、片山英之、加藤やすひさが参加。エンディングは、「藍青」には珍しいポップなデザインが斬新なコンテとなっており、目を引いたな。原画は岩倉和憲のみ。