愛の若草物語 第40話「ベスが猩紅熱にかかった!」

タイトル通り、ベスが猩紅熱にかかる話。猩紅熱に対する抗生物質ペニシリンが発見されたのが1929年であるが、原作が発表されたのはまだ1868年であり、感染症は人々にとって生命にかかわる可能性のある病気だった頃のようだ。元から身体が弱いベスが猩紅熱にかかる、ということは、ベスの生命が危険に晒される状態になるということであり、物語始まって以来のシリアスな展開に突入したことになる。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

ベスが世話のために行った先である、病気の赤ちゃんがいるフンベル家から出てきた時の描写が非常に印象深い。

風が強く吹きすさぶ中、寒々しい家屋のドアが開き放たったままでベスが急いで飛び出していく。ベスはそのまま茫然自失といった態で歩き出し、ふと後ろを振り返る。開け放たれたドアは、風でカタカタと揺れている。それをじっと見ていたベスの瞳からやがて涙が溢れ出し、ベスはその場で泣き出してしまい、また急いで駆け出してしまう。

この時点で詳しい説明はなく、またベスがマーチ家に帰った後もしばらくは何の説明もない。ジョオがベスの部屋に入り、ベスが薬箱をひくり返しているのを見てから、ようやっとベスがジョオに「フンベル家の赤ちゃんが猩紅熱にかかっていて、自分の膝の上で死んだ」と告げるのだ。

ここまで溜めに溜めた後に「ベスが猩紅熱にかかった」ことを開陳させる展開も見事だし、またベスがフンベル家から出てきたところの描写も作画/演出共に冴え渡っていて、震えるほど凄みが出ていた。風でドアがカタカタと揺れるところなど、寒々しさや不気味さがよく出ていて、これから訪れる不幸の大きさが視聴者に十二分に伝わっていた。またベスが橋の上で泣きつくし、そのまま急いで駆け出していくところも、橋の下からキャラクターからやや離れたところにキャメラを置いたところから俯瞰で捕らえるという、敢えてキャラクターを突き放したような冷徹な演出方法が選択されていたのも、その時のベスの絶望に満ちた心境をよく伝えていて、グッドだった。

長いシリーズの中でも、ベスの病気は最も大きなクライマックスと言っても過言ではなく、それゆえにイントロにあたる部分は非常に重要な意味を担うことにある。スタッフたちは重要度をきちんと理解し、十二分に期待を応える演出・作画を見せてくれていた。最初に本話を観たのはもう何年も前になるが、非常にインパクトの強い場面で強く印象に残っており、その印象は今回観ても変わることはなかった。
脚本主導で演出は控えめであまり大きな味付けはしないという方針で進んでいた「若草物語」には珍しく、演出・作画に相当な力が入った部分でもあった。このあたり、「若草物語」スタッフは一視聴者の私が思っていた以上に作品世界のコントロールに長けていたようだ。感服した。