愛の若草物語 第48話「春!それぞれの旅立ち」

愛の若草物語」は初見ではなかったのだけれど、もう何年も見返していなかったので、内容については結構忘れているところがあり、新鮮な気持ちで観ることができた。この最終回も大部分忘れていたが、実に見事な締め括り方で唸らさせられた。まさか、最後の最後で原作から外れ、アニメオリジナル展開に持っていくとは思いも寄らなかったよ。

各キャラクターの結末のつけ方もよい。これまでずっと「便利な小悪党役」を担い続けてきたデービッドが、「戦争の写真を撮るんだ!」と言って、写真技師の道を進み始める展開も面白かった。これまでずうっと「戦争なんかに行ったら死んじゃいますよ」と言っていたことを踏まえると、デービッドが本気であることが推し量られる。(何より、デービッドはこれまでずっと「戦争に行ったら死んでしまう」と主張してきたのだ。大きな目的がある者は、どんなリスクがあろうとも、活き活きと前へ進んでいくものなのだ)
結局、その場にいたジョオとマーサおばさんに「戦争は終わった」と言ってヘナヘナ倒れこむところも、最初の仕事であるマーチ家撮影会に遅刻してやってきたりするところも、小悪党らしい間抜けさは変わらなかったが、それを含めてデービッドは愛すべきキャラであり、意外に作品世界でも暖かい視線が向けられていたように思う。私は勿論、かなりこのキャラが好きである。

フレデリックが再び戦争に赴くことはなく、マーチ家に残って仕事を探すこと」「メグとカールが婚約したこと」「ローレンス郷の斡旋によって、カールには然るべき仕事を与えられるようになること(したがい、カールは「一貧乏人」という位置付けではなくなること)」「ベスが元気になって外を駆け回ったこと」など、デービッド以外にも全てのキャラに対してハッピーな結末をつけていき、観ていて実に気持ちが良かった。少し可哀相なのは、これから3ヶ月間大学に入るための勉強をしなければならないローリーだけだが、これはむしろ、ローリーが今まで「勉強」から逃げていただけであり、ローリーが向かうべきことにしっかり向き合わされるためのお膳立てが整ったという見方もできる。したがい、これはこれで1つのハッピーな結末のつけ方とも言えるだろう。

それにしても、ジョーがアンソニーの誘いに乗ってニューヨークへ向かうことを決意したのは意外だった。ジョーは、ローリーがいるニューコードではなく、アンソニーが待つニューヨークを選んだのだ。これは、何のかんの言って封建的な要素が多い原作(女は家に残って、家を守っていくことを美徳とするような)から大きく外れた部分であり、物語の最後の段になってジョオが「両親から自立して、自分の意思で、自分のしたい未来へ進んでいく」という近代的・進歩的を象徴するような結末にもっていったことを、私はたいへん評価したい。子供向けの名作アニメーションとして提示する作品が、単なる懐古趣味に陥らず、かと言って過去を否定することもなく、時代に合わせた適切なメッセージを送ることは、(やや大げさだが)作り手の責務とも言えるし、非常に健全なことでもある。その点で、「愛の若草物語」は名作アニメーションの条件を充分に備えた良作と言えるであろう。
(第28話では、すっかりローリーのあて馬役のようにアンソニーは描かれてしまっているので、前の感想でも書いたが、アンソニーが「本筋」に関わるようなことはないと思っていた。ところが、それは浅はかな私の誤算であったようだ)

【総論】
元々人気の高い良質な作品ではあるものの、今の時代にオリジナルなまま展開してしまうと、単なる「昔は良かったね」といった懐古趣味や、ちょっとした説教臭さ・宗教臭さばかりが滲み出てしまうような、ピントのずれた作風になってしまう危険性も充分にあったように思う。(たとえば、同じ名作系の「ポリアンナ」のように、愛のおしつけで少々鬱陶しく思えるような作風になってしまう可能性もあったはずだ)それを、ベテラン宮崎晃の手腕によって、原作の良さを損なわず(むしろ引き立てて)、現在の時代にマッチした視点で作品をよみがえらせることに成功したように思う。

基本的には脚本のよさを純粋に楽しむような作品で、演出は良くも悪くも脚本に忠実に進められていたように思う。とは言え、脚本の良さを存分に伝えるフラットな演出自体は評価されるべきだし、第40話など、キーになる話では凄みのある画面作りがなされていて、全般的なレベルは高かったように思う。

キャラクターデザインが近藤喜文と山崎登志樹の2名体制だったのも面白く、また功を奏していたようにも思う。田舎臭いながらも暖かい近藤喜文キャラと、都会的でスタイリッシュな山崎登志樹キャラが意外にも違和感なく同居しているのも面白かったし、2名体制であったためにキャラクターのバリエーションが増え、賑やかな絵作りができていたように思う。

キャスティングは、他が考えられないくらい完璧で、特にジョー@山田栄子と、エイミー@佐久間レイは、彼ら自身のキャリアから考えてもベストと思えるほどの嵌り具合であった。小公女セーラでは揃って意地悪な役を演じていたメアリー@中西妙子と、ジョー@山田栄子が、この作品では気持ちのいい程の清廉潔白なキャラクターを演じているのも、なかなか感慨深いものがあった。