I'll CKBC #1 十字路、いつかの景色 Standing Cross Road

浅田弘幸原作「I'll」のOVA化。原作未読。

原作のクライマックスに追いつくためであろうが、かなり内容が大幅に圧縮&急ぎ足の展開であった。
原作のスタイルを踏襲しているのかもしれないけれど、基本的に柊の主観/モノローグで話が進んでいくため、登場人物や物語の流れの把握さえままならず、原作未読者である自分には厳しかった。

柊と柊の父親・兄貴との確執についても、もうちょっと踏み込んだ、具体的なエピソードが欲しかった。単なる「よくあるパターンの踏襲」以上の意味は見出せず、柊が中二病を患っているようにしか見えなかった。
(途中で、久川綾声の姉ちゃん(峰藤)が柊に言っていた「たからもの」という言葉も、私には全く意味不明に聞こえた)

また、柊と立花の関係性についても、ドラマの積み上げが感じられず、そのため次回の引きとなっている2人の直接対決についても、あまり盛り上がることができなかった。立花が放課後に三木真一郎声の友人のバイト先に足繁く通い、何かバスケっぽいことをしていることがどういった意図があるか不明だったし、クラブの場ではやる気ない態度を見せているのも謎だった。そのクセ、柊が国体補欠選手選抜合宿があるため通常の国府津高校でのクラブ練習を休んだ際、わざわざ合宿まで乗り込んで行って1on1の勝負を挑もうとするところなど、行動に一貫性が見られず、理解に苦しんだ。自分の気持ちをストレートに表現しない若者らしさを演出したかったのかもしれないが、単に、分裂症患者にしか見えなかった。

柊の立花に対する愛情、自分を再度バスケットボールへ向かうきっかけを与えてくれたことに対する「特別な存在」という感情、また立花の柊に感じているコンプレックス、そしていつか柊を抜いてやろうという闘争心が、きちんと作品内で表現できていれば、ここまでスッキリしない話にはならなかったと思うのだが、巧く表現できているとは到底思えなかった。そのため、「登場人物たちが何をやりたいかよく分からないドラマ(そもそも興味を持てない)」になってしまっていた。

時にリアル調で、時に水彩画調の抽象的に描かれる加藤朋則の美術は変わっていて、また作品の雰囲気にもあっていて、面白かった。
立花@金子昇/柊@神谷浩史の主役2人の演技合戦も、単に勢いで突き進むだけでなく、原作者の持ち味である若者の繊細な感情の揺れ動きが巧く表現されていて(特に神谷浩史)、良かった。
ただ惜しむらくは、バスケットボールの部分の作画が少なく、あっても冒頭のしょっぱい作画しかなく、その部分ではたいへん残念だった。(全般的な作画は悪くないのに、なぜ冒頭だけしょっぱい?とも思ったな)やっぱり、美麗なバスケットボールの作画が観たい訳ですよ。バスケ漫画な訳ですから。(でも次回は期待できるのか?)

きちんと描けば面白くなりそうな材料が揃っているだけに、調理の方法があまり巧くないのが、残念だったな。14巻分の原作をじっくり読み込んだ後ではまた違った感想になるのだろうが、現時点では残念としか思えない。少なくとも、アニメ作品として成功はしていないだろう。(最終的な結論は次回を観て決めたいが)

I’LL/CKBC #1「十字路、いつかの景色 Standing Cross Road」 [DVD]

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